「LINE公式アカウントを開設して友だち追加のQRコードも店頭に貼った。なのに、訪日のお客さまがリピーターになってくれない」——インバウンドに取り組む宿泊・小売・飲食の事業者から、この相談を本当によく受けます。

数字だけ見ればLINEは盤石です。国内利用率は9割超、公式アカウントから配信したメッセージは約8割が当日中に開封される。メルマガの開封率が20〜30%程度であることを考えれば、桁違いの接点です。それでもインバウンドで成果が出ないのには、はっきりした理由があります。

まず押さえたい:訪日客の6割はリピーター

観光庁のインバウンド消費動向調査によると、2024年の訪日リピーター率は65%。単純計算で約2,400万人が「2回目以降」の来日です。つまりインバウンドはもはや新規獲得の市場ではなく、いかに再来日してもらうかの市場に変わっています。

リピーター施策の効果は国内ビジネスでも実証済みで、「解約率を5%改善するだけで利益が最低25%改善する」という5:25の法則が知られています。一度日本を気に入った人にもう一度来てもらうほうが、新しい国でゼロから認知を取るよりはるかに安く、利益貢献も大きい。ここまでは多くの事業者が理解しています。問題はその先です。

なぜ「とりあえずLINE公式」では届かないのか

つまずきの大半は、お客さまの母国でLINEが使われていないという一点に集約されます。

LINEが圧倒的トップシェアを持つのは日本・台湾・タイ・インドネシアの主要4市場だけです。台湾では人口の9割近く、タイでも6割以上が使っていますが、それ以外の国では事情がまるで違います。

市場主力メッセージアプリLINEの普及
台湾・タイ・インドネシアLINE高い(そのまま使える)
韓国KakaoTalk低い
中国本土WeChatほぼ使われない
欧米・豪州WhatsApp / Messengerほとんど使われない

韓国・中国・欧米のお客さまにLINEの友だち追加をお願いしても、そもそもアプリを持っていません。旅行のためだけに新しいアプリをインストールしてアカウントを作るのは、想像以上に高いハードルです。店頭にQRコードを貼っても素通りされるのは、お客さまの興味がないからではなく、チャネルが合っていないから。これが「作ったのに繋がらない」の正体です。

実務で機能する3ステップ

私が事業者の再来日施策を設計するときは、次の順番で組み立てます。

1. 接点を取るのは「滞在中」と決める

母国に帰ってから接点を作るのは、ほぼ不可能です。日本にいる今、目の前にお客さまがいるこの瞬間だけが勝負どころ。会計時やチェックアウト時に「次回使えるクーポン」「限定の予約枠」など、その場で友だち追加・登録する明確な理由を用意します。あるホテルでは「次回宿泊10%オフ」を登録動機にしただけで、登録率が大きく変わりました。割引そのものより、「登録する理由」を言語化できているかが効きます。

2. 市場ごとにチャネルを使い分ける

台湾・タイ・インドネシアのお客さまにはLINEで問題ありません。一方、韓国はKakaoTalk、中国はWeChat、欧米はメールやWhatsAppへ寄せる。全部を同時に立ち上げる必要はなく、自社の客層で最も多い国から1〜2チャネルに絞ります。来店データやアンケートで上位国を特定し、そこに集中するほうが運用も回ります。「日本の感覚でLINE一択」が最も危険な思い込みです。

3. 再来日の波に合わせて配信する

登録してもらえたら、配信の役割は「思い出させること」です。桜・紅葉・年末年始といった訪日の山に合わせ、シーズン2〜3ヶ月前に限定オファーを送る。リピーターは現地ツアーやコト消費への支出が新規より厚い傾向があるため、価格訴求だけでなく「次はこの体験を」という提案型のメッセージが響きます。

原則:チャネルではなく「導線」を設計する

インバウンドのメッセージング施策で成果を分けるのは、ツールの優劣ではありません。滞在中に接点を取り、母国で使われているチャネルに乗せ、再来日のタイミングで思い出してもらう——この導線が通っているかどうかです。LINEはその有力な一部ではあっても、全体の答えではない。市場ごとに最適なアプリは異なる、という当たり前の前提から設計をやり直すと、同じ予算でもリピート率はまったく変わってきます。

ご相談ください

「自社の客層だとどの市場・どのチャネルに寄せるべきか」「滞在中の登録導線をどう作るか」は、業種と客層によって最適解が変わります。インバウンドのリピーター設計でお悩みでしたら、まずは現状を整理するところから一緒に考えます。

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